先生の『畫龍點晴』「一字書と押印』を紹介
2016年06月28日
一字書と押印 (2016年月刊競書雑誌『不二』8月号、
巻頭言から引用しご紹介します
日本書道教育学会 会 長 石 橋 鯉 城
今から六十八年も前、父石橋犀水が昭和二十三年、
東京美術学校・文部省共催の破格の態勢で
新制高等学校芸能科書道
教員養成講習会を開催した。
彼はこの講習で尾上柴舟先生と共に、戦後の
米軍占領下にあって、初めて発足の
新制高等学校教員の有資格者、
一五六名を誕生させた。
この超法規的な事業では、彼は企画、
根回し、実施規定作り、新制高等學校
芸能書道のカリキュラム案策定の一切
に関わって、その成立に賭けてぃた。
当時五年生だった私は、お使ぃを頼まれ、
著名な先生方のお宅を訪れたことも多かった。
中でも記憶に残るのは緑色の帯も鮮やかな
芥緑石(かいりょくせき)の大印の受け
取りに行かされた時のことだった。
——————————- 犀水魚徒 -—————————————
——————————————————————
それは、石井雙石先生による
「石橋啓印」「犀水魚徒」と刻された逸物だった。
私の雅印との出遭いは、ここから始まった。
今から五十年も前の書道教育肇倉創立
十五周年記念事業では、東京・大阪の
両三越で開催中の「中国二干年
の美-西安碑林拓本展」の向こぅを
張って、我々は昭和四十年(一九六五)、
「中国、日本三干年の美・書道名品展」
を武道館を会場に開催した。
その展示指導の中で雙石先生は、
私に大事な一言を漏らされた。
私の篆刻観の基は、その折の先生の
一言に由来してぃる。
それは「篆刻は方寸の世界に宇宙を表現する
のだ。君、分かるかね」との貴重な示唆だった。
書作品の完成・作品の仕上りと言ぅのは、
最後の押印にょってこそ本当の作品の
完成になるのだ。
と実感したのも随分後になってからであるが、
それは、新和様に加えて、漢字造型「一字書」を
芸術運動として標傍し初めのころであった。
一字書作品の表現には、「静中の動」「動中の静」
を感じさせ、紙面の白、運筆より生ずる墨色の
無限の陰翳(いんえい)の美しさを見る。
印の使用に当っては、押印の一頼が私の作品の
すべてを支えて呉れる。私にとって押印は
作品の完成の儀式である。
この時、未完成にして何処か余韻を残して
ぃる作品に大きな存在感が与えられ、
作品は唯一無二のものに化する。
雅印の押印はまさに書作品にとっても
「畫龍點晴」なのである。これを欠けば作品に
命は点じられない。
これから藝術の秋への制作準備が始まる。
我々は、心して制作に取り組み、
雅印の深ぃ世界を知って次元の高ぃ作品を
残さなければならない。
【陰影・陰翳】
色・音・感情などに微妙な変化があって趣が深いこと。 「 -に富んだ描写」
【雅印】
個人が,自筆の書画や所持品,書状・封緘(ふうかん)などに押すための印章。
石井雙石/いしい そうせき(雙石)
1873年4月1日-1971年10月29日
千葉県出身。篆刻家、書家。
五世浜村蔵六に師事。
東方書道会総務。日展参与。
長思印会を主宰。
1963年、紫綬褒章。1965年、勲四等旭日小綬賞を授与される。
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